●韓国は世界的にも原発依存度が高い(写真は写真は釜山港に近い古里原子力発電所)
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JB Press 2013.06.10(月) 玉置 直司
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37955
韓国の暑い夏、再びブラックアウトの危機
「安くて豊富な電力」が売り物のはずが、原発停止で非常事態に
「予想もできなかった原子力発電所の停止によって、ブラックアウトがないとは100%言えない状態だ」――。
2013年5月31日、韓国の尹相直(ユン・サンジク)産業通商資源部長官は、記者会見を開いて沈痛な表情でこう語った。
2年前にブラックアウト直前に陥った韓国だが、再び閣僚がブラックアウトに言及せざるを得ない緊急事態に陥ってしまった。
■6月初めから電力需給警報
2013年6月7日、ソウルは朝から気温が上昇し、ついに30度を超えた。
蒸し暑く不快だが、それでもまだ本格的な夏の到来とは言えない暑さだが、ソウルにある電力取引所は朝から緊張感に包まれた。
午前9時14分に早くも予備電力が500万キロワットを割り込み、「電力警報」を出した。
3日月曜日から、休日だった6日を除く毎日、「警報」が出る事態になった。
地下鉄やオフィスビルでは
「エネルギー節約のため、温度を○○度に設定しており、ご理解をお願いします」
という放送が流れる。
「まだ6月初めだというのに、真夏にはどういうことになるのか」。
こんな声があちこちから聞こえてくる。
「安くて豊富な電力」は韓国が企業を誘致する際の最大の売り物の1つだった。
ところが、一転して深刻な「電力不足」に陥っている。
■「安全証明書」偽造で原発緊急停止
尹相直長官が「予想もできなかった事態」と語ったのは、原子力発電所の設備部品に対する性能確認試験の結果を認定する書類が偽造されていたことが判明したことだ。
原子力安全委員会は、偽造書類が発覚した部品を使っている新古里発電所2号機と新月城発電所1号機の稼働を中断させた。
さらに、整備中だった新古里1号機については整備期間の延長を決めた。
今回の書類偽造問題は、原子力安全委員会への「内部告発」で発覚した。
性能確認試験を実施する業者が、部品メーカーなどと結託して「偽造文書」を発行しているとの告発を調査した結果、新古里1~4号機、新月城1~2号機で偽造した性能確認試験の結果文書を付けた部品が見つかった。
このうち、稼働中だった2基を停止させたのだ。整備中の1基についても、「整備期間延長」が決まった。
■青ざめた産業通商資源部、「ただでさえ電力不足なのに・・・」
韓国が原発2基を停止、証明書類偽造で
稼働停止になった2基の原発の発電容量はそれぞれ100万キロワット。
停止が決まったことで青ざめたのは、「夏の電力確保」に必死になっていた産業通商資源部だった。
なにしろ、ただでさえ、2013年の夏は「電力不足」が避けられないことが確実だった。
200万キロワットの能力がさらに減ることで「ブラックアウト」に言及する事態に追い込まれたのだ。
尹相直長官は会見で「2013年夏の電力需給展望および対策」を発表した。
この時に配布した資料を見ると、非常事態ぶりがはっきりと分かる。
まず冒頭の「需給展望」。
2012年夏には、供給能力が7708万キロワット、最大電力需要が7429万ワットで、その差は249万キロワットだった。
これも、事前に大口需要家などに強く「節電」を呼びかけて、何とか需要を抑え込んだ結果だった。
では1年経過した2013年はどうなのか。
産業通商資源部は、気候予想などを勘案して需要はさらに増え、ピーク時の8月第2週には「7870万キロワット」と予想する。
これに対して供給はどうか。
「原発の稼働停止などで2012年よりも電力供給はむしろ減少し、7672万キロワットになる」
と予想した。
計算の間違いではない。
「ピーク時には、需要が供給を上回り予備電力がマイナス198万キロワットになる前例のない状況」
と予想したのだ。
「需要が供給を上回る」――。
つまり、このままだと「ブラックアウトがないとは言えない」ということだ。
■電力不足や原発事故は構造的な問題?
韓国は、2013年1月時点で23基の原子力発電所を運営し、国内総電力生産の31%をまかなっていた。
原発依存度が国際的にも高い国だ。
ところが2011年の福島第一原発事故以来、韓国の原発で事故や故障、不祥事が相次いでいる。
定期点検に加えて故障で運転を停止する原発が相次ぎ、電力生産に大きな障害が出ていた。
今回、2基が運転を停止し、さらに1基の運転再開時期がずれ込むことで、23基のうち10基が運転を停止することになったのだ。
韓国の原子力発電所の発電容量のうち40%強の生産が停止している計算になる。
今回発覚した性能確認試験の「合格文書偽造」は悪質だ。
鄭烘源(チョン・ホンウォン)首相は6月6日に会見を開き、「国民の安全を脅かす到底許しがたい犯罪だ」と述べ、徹底的な捜査と対策を指示した。偽造文書問題は、さらに拡大する可能性もある。
そうなると、さらに稼働停止や運転再開時期の遅れが出る可能性もある。
こうした「事故」は尹相直長官の言うとおり「予想もできなかった」ことかもしれないが、韓国内では、「電力不足も事故・事件も構造的な問題ではないか」(韓国紙デスク)との指摘も出ている。
まず、偽造事件だが、このデスクは「韓国では李明博(イ・ミョンバク)政権以来、原発を輸出戦略産業と位置付け、『原発の国産化』を進めてきた。
こうした中で部品メーカーと、認証業者の癒着が生まれた」との見方だ。
■「日本の3分の1」の電気料金も仇に
もう1つの構造的な問題は、「需要予測の甘さ」だ。
経済活動や冷暖房機器の普及などに照らして、需要予測が低過ぎたとの指摘は多い。
実際、過去5年間に夏季の電力需要は4.3%増加したが、電力供給量は3.0%増にとどまった。
「日本に比べて3分の1」と言われる安い電気料金を維持したことも需要増の一因だろう。
過去10年間で電気料金は21%上昇したが、この間、電力消費はなんと63%も増加してしまったのだ。
さて、では、ブラックアウトを避けるためにどんな措置を取るのか。
産業通商資源部は、停止中の10基の原子力発電所のうち2基程度を早期に稼働させる計画だ。
また建設中の火力発電所の稼働開始時期を前倒しするほか、民間企業が保有する火力発電所をフル稼働させる計画だ。
ただ、原子力発電所の稼働再開については地元住民への説明などの手続きを進める必要があり、夏の電力需要ピーク時までに間に合うかはなお不透明だ。
このため、ブラックアウト阻止に向けては厳しい「節電」に頼らざるを得ない。
■厳しい強制節電に韓国企業が悲鳴
まず、最も大きな効果を期待しているのが大口需要家向けの節電だ。
8月5日から30日までの4週間、1日4時間(午前10~11時、午後2~5時)にわたって契約電力量が500キロワットの大口需要家に対して最大15%の強制節電を実施する。
官公庁やオフィスビルではエアコンの設定温度を26~28度に設定するほか、エアコンを稼働させたまま出入り口を開け放している店には罰金を科す。
地下鉄の運行間隔を1~3分間長くして運行本数を減らす。
官公庁のビルで64万個の照明を省エネ型のLED(発光ダイオード)に換えることも盛り込んだ。
一般家庭に対しては電力消費が前年比で一定以上減少した場合は、値引きも実施する。一般家庭に対しては「洗濯物はできるだけためてから、まとめて洗濯してほしい」といったきめ細かい要望も出している。
こうした対策で、供給容量を7870万キロワットに増やし、需要を7420万キロワットに圧縮する。
これによって予備電力442万キロワットを何とか確保するという目論見だ。
とにかく需要を大幅に圧縮しようという内容だ。
いろいろな節電計画があるが、要するに最大の標的は大企業だ。
なかでも、電力を大量に使うポスコや現代製鉄、大規模生産拠点を持つサムスン電子やLG電子、さらに半導体、石油化学などの業種が大きな影響を受けると見られる。
特に、「1日4時間、最大15%」という強制節電に対しては
「昨年もとことん節電をしており、さらに5%節電するのでも大変だ。
15%となると、稼働が事実上不可能になる工場も続出する。
産業活動に大きな影響が出ることは間違いない」(韓国紙デスク)
との見方が強い。
■朴槿恵大統領は厳正な捜査を指示
朴槿恵(パク・クネ)大統領は2013年6月3日、青瓦台(大統領府)での会議で偽造事件を
「国民の生命よりも私利を優先させた許しがたい行為だ」
と強く批判して徹底した捜査を命じている。
原子力発電所の安全問題は、対応を誤ると政権運営にも大きな打撃となる恐れがあり、徹底究明を指示した。
同時に、電力不足が万が一にも起こらないような万全な対策を取る考えだ。
韓国は2011年9月15日に、ブラックアウト直前に陥ったことがある。
あれから2年。事態は、さらに悪化してしまった。
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福島原発事故では大言壮語した韓国である。
しかし、この事態は少々みっともない。
なぜなら、福島は天災だが、韓国は人災である。
韓国社会が金銭だけを至上とするドロ沼状態に陥ってしまったということになる。
【「底知らず不況」へ向かう韓国】
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